稲フィル☆つうしんVol.4 |
平成19年12月9日発行
☆「悪戦奮闘記」
ファゴット(バス−ン)をご存知ですか。小豆(あずき)色をした細長い木管楽器です。
1番上に白い天使の輪のようなものがついています。音色は、オバQが歩くときの、ボンパ、
ボンパ、ボンパというあの足音。ミッキーマウスが魔法使いの弟子となって、ホウキに井戸
の水汲みをさせたときの、ホウキの歩く音。ピーターと狼のおじいさん。こう書くと、足音
専門のようですが、のどかで、牧歌的、それでいて哀調があり、とても魅力的な音がします。
パリ音楽院のジルベール・オダン氏はモーツァルトの1番美しい曲はファゴット協奏曲の2楽章
だといっていました。死者をも呼び戻す音だという人もいます。
38年前、人がいないので誰でもよいということで、大学のオーケストラに入団しファゴット
をあてがわれました。ファースト・ファゴットに導かれるまま、若さに任せて、力でファゴッ
トねじ伏せ、定期演奏会まで参加しました。1年がたち、どうにも勉強から逃れられなくなり、
不器用な私は、泣く泣くファゴットと別れました。早いもので私も1年少々で定年。ファゴット
の魅力が再び頭をもたげました。インターネットで稲フィルの雰囲気にひかれ、清水の舞台よ
りもっと高いところから飛び降りる覚悟で門をたたきました。優しく迎い入れてくれました。
しかしファゴットは私1人、大変なことになりました。どこで吹き始めればよいかがわかりま
せん。総譜とCDをたよりに、読書百遍意自ら通ずという言葉を信じ、何とかここまできました。
暖かく包容力豊かな指揮者と、熱のこもった指導の管のトレーナーのおかげで、以前の吹き方
と違う、力を抜いてお腹で支えて吹くということが少しずつできるようになりました。
さて、本日の演奏は。
(fg Y・S)
☆「熱演が奇跡に変わる時」
学生オケ時代に一度、「熱演」と評される演奏会を実現させたことがある。
そのとき、舞台の上のみんなが同じ音楽を目指し、みんなの想いがひとつになっていた。その
オーケストラが奏でる音色はプロをも凌駕するものであり、ホールの中にいた人々を熱狂の渦に
巻き込んだ(誇張表現)。私の居たオケは、決してレベルは高くなかったし、日によっては絶望
的な音のするようなオケだったと思う。奇跡が起きたのだ。でも、その奇跡の下には、半年の練
習期間で積み上げてきた努力が確かにあったのだ。演奏後、団員みんなが晴れ晴れしていた。い
つも練習がつらいと言っていたあの子が、「すごく楽しかった」と笑っていた。打ち上げでのお
酒がウマかった。
さて、近年はデジタル技術のおかげで、アマチュアオケでも立派にDVDを作るなんていうことも
容易になった。有り難いことである。記録に残された「熱演」を、もう一度再生できるのか、す
ごいな。と思っていた。しかし、そのDVDにあの時ほどの感動はなかった。当時の聴衆にも鑑賞し
てもらったが、「確かにあの時の演奏ではあるけどね。」と言われた。やはり、何かが足りない
のだ。
ひとつの演奏会を体感することができるのは、たった1度きりなのである。奇跡が起こり、すば
らしい演奏になるかもしれない。あるいは、事故が起こり、珍しい光景を目の当たりにするかも
知れない。音楽を生で聴くことの真の魅力は、「心」に残るというところにあるのではないだろ
うか。
今日の演奏会が、聴きに来てくださった皆様の心に残るものになれば、と願う。
(vn E・O)